電力調達の仕組みを知る
デマンドレスポンス(DR)は、電力需要のピーク時に需要家が使用量を下げる仕組みとして、長らく「コスト削減策」として語られてきました。しかし2024年の容量市場本格運用、2025年以降の需給調整市場整備により、DRは市場取引を通じて収益を生む経済活動へと変化しています。
本記事では、DRを収益源として捉える視点で、収益化モデル、業種別の規模感、アグリゲーター活用のパターンを実務レベルで整理します。
従来のデマンドレスポンスは、電力会社の「ピークカット要請」に応じて需要家が使用量を下げ、その見返りに電気料金の割引を受ける仕組みが主流でした。この時代のDRは請求書上のコスト削減として可視化され、年間数十万〜数百万円規模の効果に留まることが多い運用でした。
流れが変わったのは、2024年度の容量市場本格運用と、需給調整市場の段階的整備です。これらの市場では、DRによる需要抑制が「発電」と同等の価値として取引され、アグリゲーターを通じて市場取引対価が需要家に還元されるようになりました。加えて、DRの商品化(一次〜三次調整力、容量市場発動指令電源)により、収益源が複線化したことで、規模の大きい需要家ほど年間数百万〜数千万円の収益が見込めるようになっています。
2027年度に向けた需給調整市場の全商品整備と合わせ、DRは今後の法人電力戦略における「攻めの選択肢」として再評価する価値があります。特に、容量拠出金や燃料費調整額の上昇で総額が膨張し続ける法人電気料金に対し、「支払う側」だけでなく「受け取る側」の視点を持つことが、エネルギーコストマネジメントの新しい基準になりつつあります。詳しくは 制度改定カレンダー 2026-2028 で全体像を確認できます。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営する需給調整市場では、周波数調整用の電力(調整力)が商品として取引されています。2024年度から三次調整力①②が本格運用され、2025年度以降に一次・二次調整力も整備が進んでいます。
需要家側のDRは、主にアグリゲーターを経由して三次調整力②(応動時間 45分)に参加するパターンが一般的です。応札された kW 量に対してkW 価値(容量対価)+ kWh 価値(発動対価)が支払われ、発動が少ない商品でも基本的な kW 価値の収益が発生します。
2024年度から本格運用されている容量市場には、発電所だけでなく発動指令電源(DRリソース)としての応札枠があります。ここに参加する需要家は、オークションで落札された kW 単価(容量単価)をベースに、年間を通じた kW 収益を得られます。発動頻度は年間数回程度と限定的で、需要家の本業への影響が比較的小さい商品として位置付けられています。
直接市場に応札せず、アグリゲーターと相対契約を結んで参加するパターンが、多くの法人需要家にとって現実的な選択肢です。アグリゲーターが複数の需要家を束ねて市場応札し、得られた収益を契約条件に従って需要家に分配します。需要家側は計量環境の整備と発動時の対応手順を守れば、市場参加の手続きはアグリゲーターに委ねられます。
この3モデルは排他ではなく、同一需要家が複数モデルに参加することで収益を多角化できます。アグリゲーターが市場を横断して最適配分するサービスを提供しているケースも増えており、需要家側は「どの市場に」ではなく「どのアグリゲーターと」を検討する時代になっています。
DR収益の規模は、発動可能な kW 量と参加する市場商品の性格で決まります。同じ kW を提供しても、低速応動で年10回前後しか発動しない商品(容量市場発動指令電源など)と、秒〜分オーダーの応動が求められる商品(二次調整力②など)では、kW あたりの対価が数倍変わります。以下は主要業種の kW あたり年間収益の想定レンジです(容量市場発動指令電源 + 三次調整力② を想定したベースケース、2026〜2027年度水準)。
| 業種 | 発動可能 kW の目安 | kW あたり年間収益レンジ | 年間収益モデル |
|---|---|---|---|
| データセンター | 契約電力の 5〜15% | 5,000〜12,000円/kW/年 | 冷却設備の部分停止、UPS 切替(高速応動可能、kW 単価が最高水準) |
| 製造業(連続稼働) | 契約電力の 2〜5% | 2,500〜6,000円/kW/年 | 非基幹ラインの一時停止(24時間連続稼働のため発動可能 kW が限定的) |
| 製造業(日中稼働) | 契約電力の 10〜20% | 3,000〜8,000円/kW/年 | 空調・照明のピークシフト、非稼働時間帯の活用 |
| 商業施設・小売 | 契約電力の 5〜10% | 2,500〜5,000円/kW/年 | 空調・照明の部分制御(営業への影響を最小化する設計が必要) |
| 倉庫・物流 | 契約電力の 10〜25% | 3,000〜7,000円/kW/年 | 冷凍設備のプレクール、荷役シフト(冷凍倉庫は DR 適性が高い) |
※ 上記レンジは2026〜2027年度水準の参考値。容量市場の単価上昇(2027年度 +50%、2028年度 首都圏 +180%)や需給調整市場商品の整備進捗により、2028年度以降はさらに上振れする可能性が高いです。アグリゲーターとの契約条件、応答性能、発動実績により実額は変動します。
たとえば契約電力 5,000 kW のデータセンターが、発動可能 kW 500(10%)をアグリゲーター経由で市場参加させた場合、kW あたり年間収益を仮に 6,000円/kW(レンジ中央)とすれば、年間300万円の収益が発生します。発動頻度が高い商品に参加すれば、kWh 価値の収益(発動対価)も上乗せされます。
重要なのは、これらの収益が本業を停止せずに得られる点です。空調の微調整、ピーク時の照明一部消灯、冷凍倉庫のプレクール活用など、適切な設計下では業務への影響を最小化しながら収益化できます。自社の業務特性に合うDRの設計については DR向き企業の特徴 も参考になります。
また、発動頻度が低い商品(容量市場発動指令電源や三次調整力②など)を選べば、本業影響をさらに抑えながら基本収益を確保できます。年間10回前後の発動指令に対応できる体制さえあれば、残る355日は通常運用のまま kW 価値の対価を受け取れるため、設備投資のROIが想定以上に早まるケースもあります。
アグリゲーター契約では、需要家とアグリゲーターの間で収益の分配比率を取り決めます。一般的には市場で得られた対価のうち、需要家が 60〜70%、アグリゲーターが 30〜40%の範囲で分配するケースが多く見られます。ただし、業種・契約規模・応答性能(発動可能 kW の正確度)により上下します。
契約パターンは以下の3種類が典型的です。
また、分配比率以外にも発動失敗時のペナルティ(後述)、発動回数の上限・下限、契約期間(1〜3年が主流)が重要な契約論点です。相見積もりで 2〜3社を比較する際は、表面的な分配比率だけでなく、ペナルティ条項と実績データを合わせて評価することが推奨されます。
まず自社の電力使用パターンを把握し、どの設備が何 kW・何分間停止できるかを洗い出します。BEMS / FEMS のデータがあれば、日内・週内・季節別の需要プロファイルを確認し、発動可能な時間帯と kW 量を整理します。この段階で、本業への影響が最小な候補設備(空調、照明、冷凍庫、非基幹ライン)を優先的にリストアップします。
市場参加のためには、30分値計量データのリアルタイム取得と遠隔制御機能が必要になります。既存の BEMS / FEMS で要件を満たせない場合、追加投資が発生することがあります。スマートメータが設置済みで小売事業者から 30分値データを取得できれば、追加投資を抑えられるケースもあります。
2〜3社から相見積もりを取り、分配比率、ペナルティ条項、発動回数、契約期間を比較します。アグリゲーターの市場応札実績と需要家への分配実績を確認することで、表面的な条件だけで判断しない慎重な選定ができます。契約期間は初年度は1年契約で様子を見る、というアプローチも有効です。
契約後は、発動指令の受信から応答完了までの手順を関係部署で共有し、発動訓練を定期的に実施します。初年度の運用データから、発動可能 kW の見直し、追加設備の組み込み、契約条件の再交渉(2年目以降)を進めることで、収益を段階的に拡大できます。
DR参入には2つの主要リスクがあります。
市場取引である以上、発動指令に応答できなかった場合はペナルティが発生します。契約により、kW 価値の一部返還、成功報酬の削減、場合によってはアグリゲーター契約の見直しに発展することもあります。特に、想定していた設備停止が本業の繁忙期と重なった場合や、設備故障で遠隔制御が機能しない場合のリスクが高まります。余裕を持った発動可能 kW 申告(実力の 70〜80% 程度)が、ペナルティ回避の実務的な対策です。
DR による設備制御が本業の品質や安全性に影響するケースは想定外に発生します。たとえば、データセンターで冷却が想定以上に下がった場合、倉庫の冷凍温度が許容範囲を超えた場合など。設備停止のシナリオを事前にシミュレートし、安全マージンを確保した発動計画を立てることが重要です。
DRは「コスト削減策」から「収益源」へと位置付けが変わりつつあります。収益規模は契約電力と業種特性により大きく異なりますが、適切に設計すれば本業を止めずに年間数百万〜数千万円の収益が見込める領域です。2027年度にかけての需給調整市場の整備、容量市場の定着により、この収益機会はさらに拡大する見通しです。
一方で、発動失敗時のペナルティや本業影響のリスクも存在します。参入判断は、自社の電力使用パターンの分析から始め、アグリゲーター複数社との相見積もり、段階的な契約規模の拡大という慎重なアプローチが推奨されます。DRのコスト削減側も併せて検討したい場合は DRのコスト削減効果 をご参照ください。
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中立的な立場で、特定の電力会社への勧誘は一切行いません。