法人の電気料金を下げる方法として「デマンド(最大需要電力)を下げる」ことが有効だと言われます。しかし、実際にどの程度の効果があり、どのような限界があるのかを理解しておくことが重要です。
デマンド料金の仕組み、抑制の手段と実効性、そして限界を正しく把握することで、基本料金削減対策に取り組む際の判断精度が高まります。
このページでわかること
デマンド(最大需要電力)が基本料金に影響する仕組みを理解することが、抑制対策の出発点になります。
30分ごとの平均使用電力を計測
電力会社のスマートメーターは、30分を1コマとして、そのコマ内の平均電力(kW)を記録します。コマ内の最大瞬時値ではなく平均値であることがポイントです。
月間最大値がデマンドとなる
1か月(通常30〜31日)の全コマのうち、最大の30分平均電力値がその月の「最大需要電力(デマンド)」として記録されます。このデマンドが基本料金の算定基準になります。
基本料金はデマンドに比例
高圧・特別高圧契約の基本料金は「デマンド(kW)×基本料金単価(円/kW)」で算定されます。デマンドを10kW下げれば、毎月その分の基本料金が削減されます。
計算例
デマンド100kW・基本料金単価1,500円/kWの場合、月の基本料金は150,000円。デマンドを90kWに抑制できれば135,000円となり、月額15,000円・年間180,000円の削減になります。
デマンドを下げるための主な方法と、それぞれの実効性を整理します。
デマンドコントローラーの設置
効果: 高い(ピーク時の自動制御が可能)デマンドが設定上限に近づくと、設定した設備(空調・照明・電熱等)の稼働を一時的に制御するシステムです。30分コマ内の超過を自動的に防ぎます。比較的低コストで導入できる対策です。
蓄電池によるピーク補完
効果: 高い(業務への影響なしにピーク抑制)ピーク発生時に蓄電池から放電して系統からの購入電力を減らすことで、30分平均値を引き下げます。機器の停止を伴わずにデマンドを抑制できる点がメリットです。
稼働スケジュールの分散
効果: 中程度(業務制約との兼ね合いが必要)複数設備の起動タイミングを分散させることで、同時稼働によるピークを回避します。生産計画・シフトを工夫することで実現できますが、業務運用の変更が必要な場合があります。
自家消費太陽光との組み合わせ
効果: 中程度(晴天昼間限定)昼間のデマンドピーク時間帯と太陽光発電のピーク時間が重なる場合、自家消費分だけ系統からの電力を減らしデマンドを抑制できます。
デマンド抑制対策を講じる前に、以下の限界と注意点を把握しておくことが重要です。
月に1回のピーク記録がすべて
デマンドは月の最大値が記録されます。月に29日は適切に抑制できても、1日だけピークが発生すると、その月のデマンドはそのピーク値になります。抑制は「確実性」が重要です。
契約電力の変更には時間がかかる
デマンドを継続して低く抑えると、より低い契約電力への変更申請が可能になります。ただし、電力会社との契約変更には申請・確認のプロセスが必要で、即座には変更できません。
低圧契約ではデマンド料金が適用されない
低圧(主に小規模な事業所)では定額の基本料金制が多く、デマンドに比例した基本料金制ではないため、デマンド抑制による基本料金削減効果が出ない場合があります。
基本料金比率が低い場合は効果限定的
電気料金全体に占める基本料金の割合が低い場合(例:電力量料金が大部分を占める場合)は、デマンド削減の全体コストへの影響が小さくなります。
基本料金単価1,650円/kWを前提に、削減幅ごとの削減効果を整理します。
| 削減幅(kW) | 基本料金単価 | 月額削減 | 年間削減 |
|---|---|---|---|
| 30 kW | 1,650円 | 49,500円 | 594,000円 |
| 50 kW | 1,650円 | 82,500円 | 990,000円 |
| 100 kW | 1,650円 | 165,000円 | 1,980,000円 |
| 200 kW | 1,650円 | 330,000円 | 3,960,000円 |
※上記は2025〜2026年時点の業界概算値です。実際の効果は施設条件・契約内容により異なります。
導入方法ごとの費用と想定削減効果・回収期間の目安を整理します。
| 導入方法 | 初期費用 | 月額費用 | 想定削減効果 | 回収期間 |
|---|---|---|---|---|
| クラウド型監視のみ | 10〜30万円 | 3,000〜5,000円 | 10〜20kW削減 | 6〜12ヶ月 |
| 監視+自動制御 | 50〜150万円 | 5,000〜10,000円 | 30〜80kW削減 | 3〜12ヶ月 |
| BEMS連携型 | 200〜500万円 | 10,000〜30,000円 | 50〜150kW削減 | 12〜24ヶ月 |
※上記は2025〜2026年時点の業界概算値です。実際の効果は施設条件・契約内容により異なります。
デマンド抑制単独では限界がある場合、他の対策と組み合わせることで基本料金削減と電力量料金削減を両立できます。
デマンドコントローラー+蓄電池
デマンドコントローラーで制御対象と閾値を設定し、ピーク時に蓄電池から補完することで、業務停止なしに安定したデマンド抑制が可能になります。
デマンド抑制+省エネ投資
高効率空調・LED照明・インバーター化などの省エネ設備投資により設備単体の消費電力を下げることで、ピーク発生時のデマンドも低下させる効果があります。
デマンド抑制+契約電力の見直し
デマンドを継続して低く抑えた実績をもとに、電力会社に契約電力の引き下げを申請します。契約電力が変わると基本料金の計算基準が変わるため、さらなる削減につながります。
太陽光+デマンド抑制
昼間のデマンドピーク時間帯に自家消費太陽光が発電している場合、系統購入が減りデマンドが自然に抑制されます。晴天昼間のピーク抑制に有効です。
蓄電池による具体的なデマンド抑制の仕組みは 蓄電池は電気料金対策としてどう効くか で詳しく解説しています。
デマンド抑制による基本料金削減が特に有効な法人の特徴を整理します。
デマンド抑制は高圧・特別高圧契約の法人にとって有効な基本料金削減手段ですが、月に1回でもピークが発生するとその月のデマンドが更新される仕組みのため、確実な抑制が重要です。デマンドコントローラー・蓄電池・稼働スケジュール分散などの手段を組み合わせ、継続的にデマンドを管理することで、基本料金の長期的な削減効果が期待できます。ただし、低圧契約や基本料金比率が低い場合は効果が限定的なため、自社の料金構造を確認した上で優先順位を判断することが重要です。
全国実需要データ(OCCTO、FY2016〜2023)から季節別・時間帯別のピークを確認し、抑制対象とすべき時間帯を特定します。
| 時間帯 | 夏(MW) | 冬(MW) | 差(MW) |
|---|---|---|---|
| 12時 | 119,532 | 111,520 | +8,012 |
| 13時 | 123,064 | 112,904 | +10,160 |
| 14時 | 123,372 | 112,192 | +11,180 |
| 15時 | 122,161 | 112,557 | +9,604 |
| 16時 | 121,497 | 116,620 | +4,877 |
| 17時 | 117,929 | 121,782 | -3,853 |
| 18時 | 115,726 | 123,157 | -7,431 |
| 19時 | 113,178 | 120,565 | -7,387 |
| 20時 | 107,605 | 117,217 | -9,612 |
夏の抑制ターゲット: 13〜15時(冷房ピーク)
夏のピークは14時台(123,372MW)に到達します。空調の設定温度調整、ブラインド制御が有効な対策です。
冬の抑制ターゲット: 17〜19時(暖房+照明ピーク)
冬のピークは18時台(123,157MW)に到達します。照明の段階消灯、空調の予熱制御が有効な対策です。
平日vs休日: デマンド制御は平日に集中投資
平日の平均需要(103,243MW)は休日(90,939MW)より +12,304MW高くなっています。 デマンドピークは平日に集中しやすいため、平日の抑制対策に優先的に投資すべきです。
※出典: 電力広域的運営推進機関(OCCTO)公表データ(FY2016〜2023)を集計。全国9エリア合計値。
冷房需要(CDD)は全都市で+24〜40%増加する一方、暖房需要(HDD)は-10〜19%減少。この構造的変化は、デマンド抑制の夏季重視へのシフトを意味します。
CDD増加(冷房需要拡大)
| 都市 | 1995〜99年 | 2020〜24年 | 増加率 |
|---|---|---|---|
| 東京 | 470 | 583 | +24% |
| 大阪 | 602 | 747 | +24% |
| 名古屋 | 500 | 702 | +40% |
| 福岡 | 534 | 739 | +38% |
| 広島 | 530 | 672 | +27% |
HDD減少(暖房需要縮小)
| 都市 | 1995〜99年 | 2020〜24年 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 札幌 | 2526 | 2272 | -10% |
| 仙台 | 1534 | 1290 | -16% |
| 東京 | 800 | 722 | -10% |
| 金沢 | 1172 | 990 | -16% |
| 大阪 | 820 | 668 | -19% |
A.産業用蓄電池はkWhあたり5〜10万円、100kWh規模で500〜1,000万円が目安。補助金活用で初期投資を1/3〜1/2に圧縮できる場合があります。
A.屋根設置型で投資回収7〜12年、地上設置型で5〜10年が一般的。電気代削減+環境価値(Scope2減)の二重効果があります。
A.契約電力の10〜30%を調整力として提供する場合、年間数十万〜数百万円の対価。アグリゲーター経由で参加するのが一般的です。
A.PPAは発電事業者の所有設備から電力購入、自家消費は自社所有。PPAは初期投資ゼロだが長期契約必須、自家消費は投資回収後コスト削減が大きい。
A.中小企業経営強化税制、カーボンニュートラル投資促進税制、レジリエンス強化型蓄電池導入支援事業、自治体独自補助金など多数あります。
原発全停止により火力依存上昇。LNG輸入急増、電気料金構造が大きく変化。
再エネ普及の起点。再エネ賦課金が新たな料金構成要素に。
低圧需要家も電力会社を選択可能に。新電力急増。
全国初のエリア全停電。BCP・分散電源への注目高まる。
LNG在庫不足と寒波で年末年始に異常高騰。新電力撤退の発端。
LNG・石炭価格急騰。法人電気料金の歴史的高騰の引き金に。
全国初の警報発令。需給ひっ迫対応の重要性が認識される。
国の補助金で電気代を一時的に抑制。2024年度以降段階的縮小。
送配電事業者の総収入規制を本格運用。長期の料金安定化を狙う。
GX-ETS・化石燃料賦課金の段階導入が決定。中長期のカーボンコスト上昇要因。
容量拠出金が小売事業者・需要家のコスト増要因として顕在化。
排出量取引が義務化。電力会社の排出枠コストが料金に転嫁される段階へ。
※ 主要な電力市場・料金に影響を与えたイベントを年表化したものです。詳細は各種公的資料をご参照ください。
冬のデマンド管理も引き続き重要
ただし冬の18時台ピークは依然として夏の14時台に匹敵する水準(約12.3万MW)であり、冬のデマンド管理を軽視すべきではありません。
※CDD(冷房度日): 基準温度22℃。HDD(暖房度日): 基準温度14℃。出典: 気象庁過去の気象データ(1995〜2024年)を集計。
現在の契約電力とデマンドの状況をもとに、基本料金削減の可能性をシミュレーションできます。
記事を読んで気になった点があれば、エネルギー情報センターにお気軽にご相談ください。法人・自治体の電力契約に精通したスタッフが、中立的な立場で判断材料を整理します。初回相談は無料です。
中立的な立場で、特定の電力会社への勧誘は一切行いません。