EXECUTIVE / 経営層・CFO向け
3年・5年シナリオ別前提設定ガイド
電力コストは「今年だけの問題」ではありません。GX賦課金の段階的導入・容量拠出金の急騰・再エネ賦課金の変動など、 構造的な価格上昇要因が2030年に向けて重層的に積み重なっています。中期経営計画(中計)に単一の電力費前提を置くことは、 計画未達のリスクを内包します。本ページでは、経営企画部・CFOが中計策定時に使える「シナリオ別電力コスト前提設定の フレームワーク」と、継続モニタリングに必要なKPI体系を解説します。
当法人は法人向け電気料金の高騰リスク分析・脱炭素対応支援を行う非営利法人です。本記事は公的データ(経済産業省・OCCTO・JEPX・環境省等)と実務知見を基に編集しています。
この記事の著者: 江田 健二(一般社団法人エネルギー情報センター 理事 / RAUL株式会社 代表取締役)— 電力・エネルギー業界20年以上、書籍20冊以上執筆、内閣府・中小企業庁・商工会議所登壇多数プロフィール →
2020年代の電力市場は「価格の構造的高止まり」に移行しています。かつての電力費は 比較的安定したコストとして中計上は固定費扱いでしたが、2021〜2025年の電気代急騰を経て、 電力費は「管理すべき変動リスク」として認識を改める必要があります。
以下は2026〜2030年度の5か年中計における電力単価上昇率の想定レンジです。 自社の契約形態・業種・地域特性に応じて数値を調整してください。 「前年度比上昇率」として記載しており、累積では悲観シナリオで+50〜70%超になる可能性もあります。
| 年度 | 基準シナリオ | 楽観シナリオ | 悲観シナリオ | 主な変動要因 |
|---|---|---|---|---|
| 2026年度(1年目) | +3〜5% | ▲2%以内 | +8〜12% | 燃調費・容量拠出金の動向次第 |
| 2027年度(2年目) | +5〜8% | ±0〜+2% | +12〜18% | GX賦課金段階的拡大の影響 |
| 2028年度(3年目) | +5〜10% | +1〜3% | +15〜25% | 電源構成変化・再エネ賦課金見直し |
| 2029年度(4年目) | +3〜8% | ±0〜+5% | +10〜20% | 市場安定化 or 構造高止まり分岐点 |
| 2030年度(5年目) | +3〜7% | ▲5〜0% | +10〜20% | 2030年エネルギーミックス政策評価 |
※ 前年度比の上昇率レンジ。累積インパクトは複利計算で試算すること。楽観シナリオは省エネ投資・原発再稼働進展・化石燃料価格下落を前提。
シナリオ採用の考え方
基準シナリオ:政策・市場の現状トレンドが継続する前提。中計の本予算として採用。
楽観シナリオ:原発再稼働・燃料安・省エネ進展が重なった場合。感度分析の上限として使用。
悲観シナリオ:有事・大幅な政策変更・需給逼迫が重なった場合。リスクバッファの算定に使用。
中計期間(2026〜2030年度)において電力コストに影響する主要な制度変更を整理します。 いずれも単価に直接影響し、一部は自社の省エネ対策や調達戦略で緩和できます。
| 制度・費用項目 | 影響タイミング | コストインパクト | リスク |
|---|---|---|---|
| GX賦課金(炭素賦課金) | 2028年度〜段階拡大 | kWh単価+0.5〜2円/kWh超の可能性 | 高 |
| 再エネ賦課金(FIT) | 2026〜2030年継続 | 年間±数十〜百億円規模の変動 | 中〜高 |
| 容量拠出金 | 毎年度改定 | 前年比+20〜50%の急騰リスクあり | 高 |
| 燃料費調整額 | 毎月改定 | LNG・石炭価格連動、±3円/kWh幅 | 中 |
| 電源構成変化(原発再稼働) | 拠点・地域による | 安定化要因、ただし進捗は不透明 | 低〜中 |
| 需給逼迫対策費用 | 夏冬ピーク期 | スポット価格急騰リスク | 中 |
※ 各制度の詳細は経産省・電力広域的運営推進機関(OCCTO)・資源エネルギー庁の公表資料で確認してください。
中計の電力コスト管理を実効性あるものにするには、KPIの設定とモニタリング頻度の定義が必要です。 以下は経営企画部が整備すべき標準的なKPI一覧です。
| KPI | モニタリング頻度 | 管理目標 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 電力費/売上高比率(%) | 四半期 | 業種標準値±1pt以内 | 感応度の基本指標 |
| kWh単価(円/kWh) | 月次 | 予算単価±10%以内 | 調達効率の管理 |
| 年間電力消費量(kWh) | 月次累計 | 前年同期比±5%以内 | 省エネ進捗確認 |
| 電力費/原価比率(%) | 四半期 | 中計目標値との差異 | 製造業・食品で重要 |
| 省エネ投資回収進捗 | 半期 | 計画ROI達成率80%以上 | 投資判断の後追い |
| 再エネ調達比率(%) | 年次 | SBT/RE100目標との整合 | ESG/開示対応 |
| 電力コスト増加額(vs予算) | 月次 | 月次▲500万円超で経営報告 | エスカレーション基準 |
投資家・取締役に対して電力コストリスクを開示するための記載フレームを示します。
【記載例】電力コスト前提(中計2026-2030)
基準シナリオ:2025年度実績単価に対し、年率+5%前後の上昇を前提。
GX賦課金(2028年度〜):+0.5〜1.0円/kWh相当を費用積み上げ。
容量拠出金:前年比+20〜30%の変動を見込み、リスクバッファとして計上。
悲観シナリオ:年率+12〜18%上昇時のEBITDA影響▲○○百万円を別途開示。
中計と調達戦略を連動させることで、シナリオ悲観時のリスクを緩和できます。 自社の規模・拠点数・設備条件に応じてオプションを組み合わせてください。
3〜5年の単価固定で市場変動を遮断。安定性を優先する場合に有効。ただし市場下落時の恩恵を受けられない。
再エネ発電事業者と長期契約。固定価格で再エネ電力を調達し、ESG対応とコスト安定を両立。初期費用不要のオンサイト型も。
太陽光+蓄電池を自社設置し、系統電力依存度を下げる。初期投資は大きいが長期的なコスト削減効果が高い。
DR(デマンドレスポンス)対応で電力費を削減。需給逼迫時に自社需要を抑制し、インセンティブを得る仕組み。
電気代上昇前提の下でNPVが改善。LED・インバータ・空調更新・コンプレッサー最適化の投資判断を前倒しで実施。
価格が安定している時期のみ市場連動型を活用。固定契約との組み合わせでポートフォリオ管理するアプローチ。
基準・楽観・悲観の3シナリオを明示し、各シナリオの発生確率と採用根拠を記載する。単一の「予想値」で計画を立てることは、構造的な価格変動局面では経営リスクになる。
GX賦課金・再エネ賦課金・容量拠出金の政策決定スケジュールを把握し、中計の各年度前提に反映させる。政策情報は経産省・電力広域的運営推進機関(OCCTO)の公表資料で確認できる。
月次の電力費管理をKPIとして財務報告に組み込む。電力費/売上高比率がベンチマークを超えた場合のエスカレーションルールと対応手順を事前に定めておく。
現在の契約が固定か市場連動かを確認し、中計期間中の契約更新タイミングで調達戦略を見直す機会を事前にスケジュールする。長期固定契約・PPA・自己託送等の選択肢を検討させる。
電気代上昇前提の下では、省エネ設備投資のNPVが改善する。設備更新・LED・空調・蓄電池・太陽光のROI試算を中計の投資計画に織り込み、CAPEX優先順位を見直す。
A.①売上に対する電気代比率、②前年比増減、③kWhあたり単価推移、④契約電力使用率、⑤Scope2排出量、の5KPIが基本です。月次・四半期で確認します。
A.3〜5年の上昇シナリオ(保守・標準・高騰)を作成し、各シナリオでの利益影響を試算。脱炭素戦略・PPA契約・省エネ投資を統合的に位置づけます。
A.Scope2排出量・再エネ比率はESG評価の重要項目。CDP・SBT認定取得が機関投資家からの評価を高め、株価・調達コストに影響します。
A.①燃料費高騰によるコストショック、②市場連動契約のキャッシュフロー変動、③カーボンプライシング導入による負担増、④BCP不備による事業中断、の4つが主要リスク。
A.①現状診断、②シナリオ分析、③選択肢評価、④投資判断、⑤実行・モニタリング、のサイクル。年1〜2回、取締役会レベルで議論することが推奨されます。
原発全停止により火力依存上昇。LNG輸入急増、電気料金構造が大きく変化。
再エネ普及の起点。再エネ賦課金が新たな料金構成要素に。
低圧需要家も電力会社を選択可能に。新電力急増。
全国初のエリア全停電。BCP・分散電源への注目高まる。
LNG在庫不足と寒波で年末年始に異常高騰。新電力撤退の発端。
LNG・石炭価格急騰。法人電気料金の歴史的高騰の引き金に。
全国初の警報発令。需給ひっ迫対応の重要性が認識される。
国の補助金で電気代を一時的に抑制。2024年度以降段階的縮小。
送配電事業者の総収入規制を本格運用。長期の料金安定化を狙う。
GX-ETS・化石燃料賦課金の段階導入が決定。中長期のカーボンコスト上昇要因。
容量拠出金が小売事業者・需要家のコスト増要因として顕在化。
排出量取引が義務化。電力会社の排出枠コストが料金に転嫁される段階へ。
※ 主要な電力市場・料金に影響を与えたイベントを年表化したものです。詳細は各種公的資料をご参照ください。
シミュレーターを使えば、自社の電気代上昇シナリオを数値で確認できます。中期計画への組み込みにお役立てください。
記事を読んで気になった点があれば、エネルギー情報センターにお気軽にご相談ください。法人・自治体の電力契約に精通したスタッフが、中立的な立場で判断材料を整理します。初回相談は無料です。
中立的な立場で、特定の電力会社への勧誘は一切行いません。