ホテルは客室・共用部・厨房・ランドリーなど多様な設備が24時間稼働し、電気料金が事業コストの大きな部分を占める業種です。稼働率の季節変動が電力使用量に直結するため、年間を通じた使用パターンの把握と、コスト変動への対応が重要になります。
このページでは、ホテル特有の負荷特性を踏まえた契約見直しの着眼点を整理しています。
このページでわかること
当法人は法人向け電気料金の高騰リスク分析・脱炭素対応支援を行う非営利法人です。本記事は公的データ(経済産業省・OCCTO・JEPX・環境省等)と実務知見を基に編集しています。
この記事の著者: 江田 健二(一般社団法人エネルギー情報センター 理事 / RAUL株式会社 代表取締役)— 電力・エネルギー業界20年以上、書籍20冊以上執筆、内閣府・中小企業庁・商工会議所登壇多数プロフィール →
ホテルの電気料金は、以下の構造的な要因から上がりやすくなっています。
電気料金の上昇要因の全体像は 法人の電気料金が上がる理由 で確認できます。
ホテルの電力プロファイルは、客室稼働連動層・厨房ピーク層・共用部空調ベース層・宴会場イベント層の四層構造を持ちます。一般オフィスと異なり 24 時間稼働のベースロードが厚く、繁忙日は宴会需要のピークが客室需要と重なってデマンド最大値を押し上げる構造です。各層の負荷特性は以下のとおりです。
客室空調・換気
客室は全室分の空調設備が24時間稼働できる状態を維持する必要があります。稼働率100%の繁忙期は全室空調が稼働しますが、閑散期は稼働室数が減少します。客室ごとのインバーター制御・不在時自動オフ機能を活用することで、空室時の無駄な空調稼働を削減できます。
共用部・ロビー・廊下
ロビー・廊下・エレベーター・駐車場・外灯など共用部の照明・空調は24時間稼働が基本。高天井のロビーは空調効率が低くなりやすく、電力消費が大きくなる傾向があります。LED化・自動調光で削減余地がある場合があります。
レストラン・宴会場・厨房
宿泊特化型ホテルでも朝食サービスの厨房が稼働。フルサービスホテルでは昼・夜・宴会の厨房稼働が電力消費に大きく寄与します。宴会シーズン(11〜12月)には大空調・照明・音響設備の同時稼働でデマンドピークが発生しやすくなります。
ランドリー・クリーニング
シーツ・タオル類の洗濯・乾燥設備は、業務用の大型機器が稼働します。稼働時間帯の管理(オフピーク時間への移行)でデマンド抑制に貢献できる場合があります。
給湯・温水設備
客室・大浴場・厨房向けの給湯設備は、電気式ヒートポンプ給湯器の導入が進むホテルでは電力消費の大きな部分を占めます。深夜電力を活用したタンク貯湯型は、昼間のデマンドを抑制する効果があります。
自社ホテルの電気代水準が業界相場と比べて妥当かを判断するには、客室数あたりの年間使用量・電気代を業界平均と比較するのが基本です。客室タイプ・施設形態(ビジネス/シティ/リゾート)で 1.5〜2 倍の幅があるため、自社が属するカテゴリのレンジで照合してください。
| 規模 | 年間電力使用量目安 | 年間電気料金目安 | 主な施設形態 |
|---|---|---|---|
| 50 客室(小型) | 約 80〜140 万 kWh | 約 1,500〜2,500 万円 | ビジネスホテル、駅前小規模 |
| 100 客室(中規模) | 約 170〜300 万 kWh | 約 3,000〜5,500 万円 | シティホテル、宴会場併設 |
| 300 客室(大型) | 約 500〜900 万 kWh | 約 9,000 万〜1.6 億円 | フルサービス、リゾート、特高契約 |
出典: 観光庁「宿泊業のエネルギー消費実態」、エネルギー情報センター内部試算をもとに業界平均レンジで作成。施設形態・温泉設備の有無で変動。
ホテルは電力使用量が多く、プラン選択の影響額も大きくなりやすい業種です。
固定プランが向きやすいケース
市場連動を検討できるケース
プラン選択の詳細な考え方は 固定プランと市場連動プランの判断ガイド も参照してください。
ホテルの電気代削減で、契約プラン見直しの次に効果が大きいのが省エネ設備投資です。観光業特化の補助金スキームを活用することで、初期投資を圧縮しランニングコストの改善を加速できます。
観光庁
観光関連事業者向け省エネルギー設備導入支援。客室空調・LED 化・ヒートポンプ給湯器など宿泊施設特有設備への補助率が手厚い。
経産省 SII
省エネルギー投資促進支援事業。汎用設備(高効率空調・LED・コンプレッサー)の更新で活用しやすく、ホテル業界での採択実績が多い。
環境省
ZEB 化推進事業・地域脱炭素移行・再エネ推進交付金。自家消費型太陽光・蓄電池・PPA モデル導入の補助率が高い。
ホテルの電力契約見直しは、繁忙期(夏・年末年始)の前 3〜6 か月を仕込みタイミングとし、閑散期(4〜5 月、9〜10 月)に新契約を切り替えるのが運用安定性とコスト最適化の両立に有効です。複数年契約や設備投資を組み合わせる場合は、中期計画策定タイミング(通常 4 月)から逆算したスケジューリングを行います。
ホテルの電気使用量は、客室稼働率と強い相関があります。繁忙期(夏・年末年始・ゴールデンウィーク)は稼働率が上がり、空調・照明・給湯の使用量が増加します。閑散期は稼働率低下に伴い使用量が減少しますが、共用部・厨房・セキュリティ設備のベースロードは変わりません。過去12か月の月次データから稼働率と使用量の相関を把握しておくと、見積条件の設定に役立ちます。
宴会場と客室空調・厨房が同時にフル稼働する繁忙期のピーク日に、年間で最も高いデマンド値が発生することがあります。このタイミングが翌年以降の基本料金単価に影響するため、デマンドコントローラーによるピーク制御の効果は大きくなります。
複数のホテルを運営するチェーンでは、各物件の電力契約を本部でまとめて管理し、一括での見積依頼・切替を行うことでスケールメリットが生まれる場合があります。ただし、各ホテルの立地・規模・需要パターンが異なるため、プランの個別対応も必要です。
大規模改修・増改築を予定している場合は、電力設備の更新と同時に契約電力・メーター設備の見直しを検討するのが効率的です。改修後は負荷パターンが変わるため、旧来の契約電力設定が過大になることもあります。
客室の空調・照明自動制御
客室のキーカード連動型のエアコン・照明自動オフ機能。チェックアウト後の空室状態での無駄な稼働を削減する。後付けシステムも存在する。
ヒートポンプ給湯器
深夜電力を活用した貯湯型ヒートポンプ給湯器は、昼間のデマンドを抑制しながら給湯コストを削減できる。大規模ホテルでは業務用ヒートポンプシステムが有効。
LED化・スマート照明
共用廊下・駐車場・外灯のLED化と人感センサー制御。客室照明の調光対応で雰囲気を保ちながら省エネを実現する。
デマンドコントローラー
宴会・大型イベント時のデマンドピークを制御。空調設定の自動調整や一部設備の自動絞り込みで、契約電力を下げる可能性がある。
複合施策の効果を具体的にイメージするため、100 室規模の中規模シティホテルを想定した試算ベンチマークを示します。施設形態・既設設備で削減幅は変動しますが、初期検討の参考値として活用できます。
想定モデル
削減施策と効果目安(年間)
出典: エネルギー情報センター内部試算、観光業法人事例ヒアリング、業界平均レンジで作成。
A.電力多消費業種(製造・冷凍倉庫・データセンター)は基本料金比率が高く、サービス業は使用量料金中心。業種特性に応じた最適化アプローチが異なります。
A.業種別ベンチマークデータは省エネルギーセンター・経産省統計で公表されています。自社の使用量を業種平均と比較することで改善余地が見えます。
A.①売上原価における電気代比率、②時間帯別消費パターン、③契約区分(高圧/低圧)、④地域分散度、の4軸で業種特性が変わります。
A.①製造業:デマンド管理・生産シフト、②飲食店:冷蔵冷凍効率化、③オフィス:空調・照明制御、④物流:冷凍倉庫運用、⑤データセンター:冷却最適化が定番です。
A.事業所別・業種別に契約・プランを最適化し、グループ全体で集中管理するハイブリッド型が効果的です。業種別の電力原単位管理を起点にします。
原発全停止により火力依存上昇。LNG輸入急増、電気料金構造が大きく変化。
再エネ普及の起点。再エネ賦課金が新たな料金構成要素に。
低圧需要家も電力会社を選択可能に。新電力急増。
全国初のエリア全停電。BCP・分散電源への注目高まる。
LNG在庫不足と寒波で年末年始に異常高騰。新電力撤退の発端。
LNG・石炭価格急騰。法人電気料金の歴史的高騰の引き金に。
全国初の警報発令。需給ひっ迫対応の重要性が認識される。
国の補助金で電気代を一時的に抑制。2024年度以降段階的縮小。
送配電事業者の総収入規制を本格運用。長期の料金安定化を狙う。
GX-ETS・化石燃料賦課金の段階導入が決定。中長期のカーボンコスト上昇要因。
容量拠出金が小売事業者・需要家のコスト増要因として顕在化。
排出量取引が義務化。電力会社の排出枠コストが料金に転嫁される段階へ。
※ 主要な電力市場・料金に影響を与えたイベントを年表化したものです。詳細は各種公的資料をご参照ください。
繁忙期(夏・年末年始)の前 3〜6 か月、つまり春先と秋口が見直しの仕込みタイミングとして最適です。新契約は閑散期(4〜5 月、9〜10 月)に切り替えるとシステム移行・運用テストの負荷が小さく、繁忙期の運用安定性も確保しやすくなります。複数年契約を組む場合は中期計画策定タイミング(通常 4 月)から逆算します。
業界の典型値として、50 客室規模で年間約 1,500〜2,500 万円、100 客室規模で年間約 3,000〜5,500 万円、300 客室規模で年間約 9,000 万〜1.6 億円が目安レンジです。フルサービス・宴会場併設・温泉施設の有無で 1.5〜2 倍の幅があり、kWh/客室・年で業界平均と比較するのが実務的です。
ホテル業界の電気代対売上比率は、ビジネスホテル(朝食付き宿泊主体)で 2〜4%、シティホテル(フルサービス)で 3〜6%、リゾートホテル(温泉・大浴場併設)で 4〜8% が業界平均です。営業利益率が低めの業界(5〜15% 程度)では、電気代 1% の上昇が営業利益を 5〜15% 圧迫する規模感になります。
稼働率が低い時期は使用量が下がる一方、共用部・厨房・セキュリティのベースロードは変わらないため、kWh あたり単価で見ると稼働率の低い時期ほど割高になる構造があります。年間の総電気代を年間の延宿泊客数で割った『1 客あたり電気代』で管理するのが実務的な KPI です。
観光庁「観光関連事業者向け省エネルギー設備導入支援」、経産省「省エネルギー投資促進支援事業(SII)」、環境省「ZEB 化推進事業」が代表格です。観光業特化補助金は新型コロナ後のサステナビリティ要請を背景に、ZEB 化・自家消費型太陽光・蓄電池導入に対する補助率が手厚く設定されている傾向があります。
業界平均レンジとして、200 室規模シティホテル(年間 700 万 kWh 級)で、契約見直し+ヒートポンプ給湯器更新+客室キーカード連動空調+共用部 LED 化+デマンドコントローラーの組み合わせにより年間 8〜15%(約 600〜1,500 万円)の削減事例が複数報告されています。投資回収期間は省エネ補助金活用で 3〜5 年が典型値です。
著者: 江田健二(一般社団法人エネルギー情報センター 代表理事)
公開日: 2026-04-11
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24時間稼働・客室管理・宴会需要の複合負荷を踏まえた契約条件をシミュレーターに入力して、年間リスク額や固定プランとの比較を確認できます。
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中立的な立場で、特定の電力会社への勧誘は一切行いません。