MARKET DATA / データで見る電力市場
なぜ電力がタダになる時間帯があるのか
電力市場では、電気の価格がほぼゼロ(0.01円/kWh)または実質ゼロになる「0円コマ」が発生することがあります。 これは電力が余って安くなるという現象で、太陽光発電の急速な普及が主要因です。 FY2019以降、特に晴天の春・秋の昼間に頻繁に見られるようになりました。 0円コマは、市場連動型の電気料金契約を持つ法人にとっては「ほぼ無料で電力を調達できる時間帯」として恩恵をもたらす一方、 自家発電・売電事業者にとっては収入ゼロを意味する深刻な問題でもあります。
再エネ40%超時の平均価格
6.49円
通常(0〜5%比率)の半分以下
0円価格コマの割合
約6.3%
太陽光10,000MW超時
0.01円コマ初観測
FY2019〜
以降、発生頻度が増加傾向
昼間(11〜13時)の平均価格
約9.8〜11円
夕方(18時)15.76円の約60%
JEPXのスポット市場(前日市場)では、各発電事業者が翌日の各30分コマに対して入札価格と入札量を提出し、 安い順に約定する「オークション形式」で価格が決まります。 価格はゼロ円から最大200円/kWhの範囲で入札され、需要量に達した最後の入札価格が約定価格(限界費用価格)となります。
0円コマが発生するのは、需要を上回る量の電力が0円(または非常に低い価格)で入札された時です。 太陽光や風力など、燃料コストがほぼゼロの再エネ発電事業者は、発電できる状況であれば0円や0.01円で入札するインセンティブがあります。 これらの入札だけで需要が満たされると、約定価格は0.01円/kWh(市場最低価格)になります。
なぜ再エネ事業者は0円で入札するのか
太陽光・風力は「燃料費がゼロ」「設備が稼働していれば発電コストは限界的にゼロ」という特性があります。 FIT(固定価格買取制度)の適用を受けていない発電分については、0円でも売電したほうが放棄するより合理的です。 出力制御(カーテイルメント)を避けるための低価格入札も行われます。
下のグラフは、各30分コマの再エネ供給比率を8段階に分類し、それぞれの平均スポット価格をプロットしたものです。 再エネ比率が高くなるほど価格が明確に低下する強い逆相関関係が確認できます。
| 再エネ比率帯 | 平均スポット価格 | コマ数 | 価格水準 |
|---|---|---|---|
| 0-5% | 14.16 円/kWh | 5,449 | 標準〜高め |
| 5-10% | 14.13 円/kWh | 15,311 | 標準〜高め |
| 10-15% | 13.95 円/kWh | 3,710 | 標準〜高め |
| 15-20% | 13.71 円/kWh | 2,053 | 標準〜高め |
| 20-25% | 13.02 円/kWh | 1,989 | 標準〜高め |
| 25-30% | 12.30 円/kWh | 1,957 | 標準〜高め |
| 30-40% | 10.61 円/kWh | 2,869 | やや安価 |
| 40%+ | 6.49 円/kWh | 2,163 | 非常に安価(再エネ余剰域) |
※ 全年度の30分コマデータを再エネ比率帯で分類した集計値。コマ数は分析対象期間内の合計。
下のグラフは、時間帯別の平均再エネ比率(緑・左軸)とスポット価格(赤・右軸)を重ねて表示したものです。 再エネ比率が最大化する10〜13時台に価格が谷を形成し、 再エネが沈む17〜19時台に価格がピークを迎える逆相関パターンが鮮明です。
特に注目すべきは10〜14時の時間帯で、再エネ比率が平均30〜34%に達するこの帯は、 スポット価格が9.8〜11.0円/kWhと1日の中で最も安価な水準です。 晴天の春・秋には再エネ比率がさらに高まり、0円コマが発生しやすい条件が整います。
ダックカーブとの関係
太陽光の発電ピーク(10〜14時)→ 需要を供給が上回り価格低下 → 日没後(17時以降)供給急減で価格急騰、 というパターンがカリフォルニア州の電力需要曲線に形が似ているため「ダックカーブ」と呼ばれます。 太陽光の普及が進む日本でも、このパターンは年々顕著になっています。
0円コマの発生はランダムではなく、以下の条件が重なると確率が大きく高まります。
時間帯条件
系統条件
九州エリアでは特に0円コマの発生率が高く、再エネ出力制御(カーテイルメント)との関係が深いです。 太陽光が大量に入力されるにもかかわらず消費が少ない春の休日昼間には、 電力を「捨てる」(出力制御)か「0円で売る」かという二択を迫られる事業者が続出しています。
市場連動型プランを契約している法人は、0円コマ・超低価格コマの恩恵を直接受けます。 昼間(10〜14時)の電気調達コストが大幅に下がり、特に工場・物流倉庫・データセンターなど 昼間に大量の電力を使う事業者は、年間の電気代削減効果が無視できない規模になります。
さらに、意図的に昼間の電力使用量を増やす(冷蔵倉庫の予冷、蓄電池への充電、昼間シフト生産)ことで、 0円コマを積極活用するエネルギーマネジメント戦略も有効です。
一方、太陽光発電で売電収入を得ている事業者(FIT期間終了後の卒FIT、PPAなど)にとって、 0円コマは発電していても収入がゼロになることを意味します。 昼間の太陽光発電ピーク時に市場価格がゼロであれば、FIT以外での売電収益は発生しません。 「太陽光パネルを設置したのに昼間の収益が期待より大幅に低い」という問題は、今後さらに顕在化するリスクがあります。
| 立場 | 0円コマの意味 | 対応の方向性 |
|---|---|---|
| 市場連動型の電力購入者 | 昼間電力がほぼ無料→コスト削減機会 | 昼間シフト、蓄電池充電、積極活用 |
| 固定価格型の電力購入者 | 0円コマの恩恵は受けられない | 市場連動型への切替を検討 |
| 卒FIT・自家発余剰売電者 | 昼間の売電収入がゼロ→収益悪化 | 蓄電池で昼間を夕方にシフト |
| 再エネ発電事業者 | 市場売電収益がゼロ→投資回収懸念 | コーポレートPPA・容量市場活用 |
FY2019以降、0.01円コマの発生が目立つようになりました。これは日本全体の太陽光発電容量が急増し、 春・秋の晴天昼間に電力需要を上回る供給が生じるケースが増えたためです。
国内の太陽光発電導入量はFY2012のFIT開始以来急増し、2024年時点で累積設備容量は約90GW超。 春と秋の穏やかな気候で冷暖房需要が低く、かつ晴天が多い日には昼間の供給過剰が常態化しつつあります。 九州電力管内は特に顕著で、出力制御コマと0円コマが頻発する「再エネ過剰ゾーン」になっています。
0円コマは「電力が余っている」シグナルであり、蓄電池・揚水発電・水素製造などによる余剰電力の吸収手段が整備されると、 0円コマは減少していく可能性があります。
実際、蓄電池の大量導入と需給調整市場の整備が進めば、昼間の過剰供給を夕方の不足時間帯へシフトする経済合理性が生まれます。 これにより昼間のゼロ価格は緩和され、夕方のスパイクも抑制されるという二重の効果が期待されます。
ただし蓄電池コストの低下ペースと再エネ増設ペースの競走次第では、当面は0円コマが継続・増加する可能性も否定できません。 法人として「昼間の安価な電力を最大限活用する」というエネルギー戦略の重要性は今後も増していきます。
原発全停止により火力依存上昇。LNG輸入急増、電気料金構造が大きく変化。
再エネ普及の起点。再エネ賦課金が新たな料金構成要素に。
低圧需要家も電力会社を選択可能に。新電力急増。
全国初のエリア全停電。BCP・分散電源への注目高まる。
LNG在庫不足と寒波で年末年始に異常高騰。新電力撤退の発端。
LNG・石炭価格急騰。法人電気料金の歴史的高騰の引き金に。
全国初の警報発令。需給ひっ迫対応の重要性が認識される。
国の補助金で電気代を一時的に抑制。2024年度以降段階的縮小。
送配電事業者の総収入規制を本格運用。長期の料金安定化を狙う。
GX-ETS・化石燃料賦課金の段階導入が決定。中長期のカーボンコスト上昇要因。
容量拠出金が小売事業者・需要家のコスト増要因として顕在化。
排出量取引が義務化。電力会社の排出枠コストが料金に転嫁される段階へ。
※ 主要な電力市場・料金に影響を与えたイベントを年表化したものです。詳細は各種公的資料をご参照ください。
A.再エネ(主に太陽光・風力)の発電量が需要を上回り、発電事業者が売電を継続するために価格を極端に下げる結果です。再エネ比率が40%を超える時間帯に頻発します。
A.市場連動プラン契約者・蓄電池事業者・揚水発電事業者・DRアグリゲーターが経済的メリットを得ます。安い電力で充電・稼働し、高値時間帯に放電・販売できるためです。
A.出力制御は0円コマが発生しそうな時間帯に、系統安定性確保のため再エネ発電を物理的に停止させる措置です。九州・四国・北海道で頻発し、再エネ発電事業者のロスとなっています。
A.年間の0円時間帯活用で、100kWh蓄電池なら年間数十万円、MW規模で数百万〜数千万円の収益効果があります。補助金併用でROI5〜8年が目安です。
A.欧州(特にドイツ・スペイン)では再エネ過剰時にマイナス価格(発電側が支払って引き取ってもらう状態)が頻発。日本も再エネ比率上昇とともに導入検討が始まっています。
0円コマの恩恵を最大化するには市場連動型プランが有効です。一方、スパイクリスクも伴います。シミュレーターで自社の使用パターンに合ったプランを診断しましょう。
記事を読んで気になった点があれば、エネルギー情報センターにお気軽にご相談ください。法人・自治体の電力契約に精通したスタッフが、中立的な立場で判断材料を整理します。初回相談は無料です。
中立的な立場で、特定の電力会社への勧誘は一切行いません。