ここまで見てきたように、電力会社の仕入れには、市場調達、相対契約、長期契約、先物、再エネ調達、環境価値の確保など、いくつもの手段があります。 その理由は、どれか一つが万能だからではなく、対応できるリスクの種類がそれぞれ違うためです。
電力調達では、価格が上がるリスクだけでなく、必要量を確保しきれないリスク、需給が急に引き締まるリスク、燃料価格の変動、 制度変更の影響など、複数の不確実性を同時に抱えます。そのため、調達の現場では「一番安い方法を一つ選ぶ」というより、 「性格の違う手段をどう組み合わせるか」という発想が重要になります。
主なリスクは、市場価格の変動、需要予測のずれ、需給逼迫、燃料価格、制度変更です。これらは別々に動くのではなく、 同時に重なることがあります。たとえば、燃料高と猛暑と供給余力低下が重なれば、価格も数量確保も厳しくなります。
どの手段にも強みと弱みがあるためです。JEPXは柔軟ですが価格変動を受けやすく、相対契約や長期契約は安定しやすい一方で、 需要変化に完全一致させるのは難しくなります。再エネ調達は電源構成や環境価値の面で有効ですが、出力変動や制度面の読み替えも必要です。
| リスクの種類 | 主な対応手段 | 補足 |
|---|---|---|
| 価格リスク | 相対契約、長期契約、先物、価格設計の分散 | 短期市場への依存度を下げ、急変時の振れ幅を抑えやすくする |
| 数量リスク | JEPX、時間前調整、複数契約の組み合わせ | 需要予測との差分を市場で吸収しやすくする |
| 需給逼迫リスク | ベース調達の厚み確保、分散調達、需給監視 | 必要量を短期市場だけに依存しない構造を持つ |
| 燃料リスク | 燃料連動の把握、先物・長期契約、電源構成の分散 | LNG・石炭・原油の影響を単一燃料へ寄せすぎない |
| 制度変更リスク | 制度依存度の分散、証書・再エネ価値の確認、契約条項管理 | FIT/FIPや非化石価値の扱い変更を調達設計へ織り込む |
長期契約や相対契約は、ベース需要に対する数量確保と価格安定に向きやすい手段です。先物は、その上で残る将来価格の変動を抑える役割があります。 再エネ調達は、電源構成の多様化や環境価値の確保に寄与し、非化石証書は価値のレイヤーを補います。
実務では、一番安い手段を一つ選ぶのではなく、ベース部分を安定的な契約で押さえ、残る変動を市場やヘッジで吸収するというポートフォリオ発想が重要です。 これに再エネ調達や環境価値の確保を重ねていくことで、価格、数量、制度、環境価値のバランスを取ります。
1. ベース需要
長期契約・相対契約・自社電源で基礎量を押さえる
2. 残る変動需要
JEPXや時間前市場で不足分を調整する
3. 将来価格リスク
先物などで大きな価格変動に備える
4. 再エネ・価値
再エネ調達や非化石証書で商品設計や価値要件を補う
中規模新電力の典型的な調達構成例です。実際の比率は事業規模や顧客構成で異なります。
| 調達手段 | 構成比目安 | 価格水準イメージ | リスク特性 |
|---|---|---|---|
| 相対契約(ベース) | 40〜50% | 11〜14円/kWh | 価格安定・数量固定 |
| JEPX(変動調整) | 20〜30% | 8〜25円/kWh(変動大) | 柔軟だが価格リスク |
| 先物ヘッジ | 10〜20% | 12〜16円/kWh | 価格上限を制御 |
| 再エネ・PPA | 5〜15% | 10〜15円/kWh | 長期安定・環境価値 |
2022年のウクライナ情勢を契機とした燃料高騰は、調達ポートフォリオの設計が経営存続を左右することを示しました。
A.①自社発電、②相対契約(特定発電事業者から購入)、③JEPX市場、④先物市場、⑤再エネPPA、の5経路が主流です。各事業者の調達構成は公表されています。
A.需給バランスで決まります。需要が高い・供給が逼迫すると価格上昇、再エネ大量発電や需要低下で価格下落。30分単位で売買されます。
A.将来の供給力(発電所)を確保するための市場です。2020年に初回オークション開始、2024年から供給開始。コストは小売事業者経由で需要家に転嫁されます。
A.容量市場は「将来の発電能力」を取引、需給調整市場は「リアルタイムの調整力」を取引。両者は補完関係にあり、安定供給の二本柱です。
A.東京商品取引所(TOCOM)・欧州エネルギー取引所(EEX)で取引可能。大手法人がリスクヘッジ目的で活用する事例があります。中小企業には敷居が高め。
原発全停止により火力依存上昇。LNG輸入急増、電気料金構造が大きく変化。
再エネ普及の起点。再エネ賦課金が新たな料金構成要素に。
低圧需要家も電力会社を選択可能に。新電力急増。
全国初のエリア全停電。BCP・分散電源への注目高まる。
LNG在庫不足と寒波で年末年始に異常高騰。新電力撤退の発端。
LNG・石炭価格急騰。法人電気料金の歴史的高騰の引き金に。
全国初の警報発令。需給ひっ迫対応の重要性が認識される。
国の補助金で電気代を一時的に抑制。2024年度以降段階的縮小。
送配電事業者の総収入規制を本格運用。長期の料金安定化を狙う。
GX-ETS・化石燃料賦課金の段階導入が決定。中長期のカーボンコスト上昇要因。
容量拠出金が小売事業者・需要家のコスト増要因として顕在化。
排出量取引が義務化。電力会社の排出枠コストが料金に転嫁される段階へ。
※ 主要な電力市場・料金に影響を与えたイベントを年表化したものです。詳細は各種公的資料をご参照ください。
同じ市場環境でもコスト増加率に約4倍の差が出ました。2022年には新電力31社が倒産・撤退しており、その多くがJEPX依存率の高い事業者でした。
リスク管理は単独では完結しません。ここまでの各記事へ戻ると、どの手段がどのリスクに効くかを再確認できます。
相対契約とは何か|市場に依存しない仕入れの考え方
市場以外の調達手段としての役割を確認できます。
長期契約とは何か|安定調達のために期間を長く取る考え方
ベース需要の安定調達をどう考えるかを振り返れます。
先物取引とは何か|将来の価格を先に固定する仕組み
価格ヘッジの役割を確認できます。
再エネ電気はどう調達しているのか|FIT・FIP・PPA・相対契約の考え方
電源構成と価値の観点からポートフォリオを広げられます。
非化石証書とは何か|再エネ価値をどう確保するのか
環境価値のレイヤーをポートフォリオにどう入れるかを確認できます。
地政学リスクで電気料金はどう上がるか
リスク管理の背景にある燃料・地政学リスクの実例を確認できます。
デマンドレスポンス(DR)で収益を得る方法
需要側で価格変動リスクをヘッジし、さらに収益源とする法人向けガイド。
10本を通して読むと、料金の背景ではなく、電力会社がどのように仕入れ・調達を設計しているかが順につながって見えるようになります。
次に読む記事
シリーズ 10/10 ・ 応用
読む順番を意識して、前後の記事へつなげて読めるようにしています。調達手段の違いを単発で見るより、 全体像から順に追う方が背景をつかみやすくなります。
電力の仕入れ構造を押さえたうえで、自社の契約がどんな価格リスクに晒されているかをシミュレーターで数値化できます。調達戦略の壁打ちが必要なときは、専門家にお気軽にご相談ください。
記事を読んで気になった点があれば、エネルギー情報センターにお気軽にご相談ください。法人・自治体の電力契約に精通したスタッフが、中立的な立場で判断材料を整理します。初回相談は無料です。
中立的な立場で、特定の電力会社への勧誘は一切行いません。