ワーストシナリオは、最悪を煽るための機能ではなく、法人・企業・自治体が予算や契約見直しを保守的に検討するための確認手段です。 単月の価格だけでは見えにくい上振れ幅を先に把握しておくことで、説明資料や比較判断の前提をそろえやすくなります。
このページでは、シミュレーターで扱う主要リスク要因の全体像と、各要因が重複した場合の定量的な影響を整理します。
ワーストシナリオは、猛暑、厳冬、円安、地政学、災害といった主要な上振れリスク要因を一括で反映し、 電気料金・電気代がどの程度上がり得るかを確認する考え方です。単一要因だけを見た場合より、複数要因が重なるケースに対応しやすくなります。
法人や自治体では、予算説明、庁内説明、稟議、調達比較の場面で「どこまで上振れを見込むか」が重要です。 ワーストシナリオは、その説明を感覚ではなく構造で示すための土台になります。
主要6要因それぞれの単独影響と、全要因が重複した場合のワーストケース影響を整理します。
| リスク要因 | 単独での影響(円/kWh) | ワーストケースでの影響 | 発生確率 |
|---|---|---|---|
| LNG価格急騰 | +3〜5円 | +5〜8円 | 中(数年に1回) |
| 円安進行(+20円) | +1〜2円 | +2〜3円 | 中 |
| JEPX急騰(猛暑+需給逼迫) | +5〜15円 | +10〜20円 | 低(市場連動型のみ) |
| 再エネ賦課金増 | +0.5〜1円 | +1円 | 高(制度的) |
| 容量拠出金増 | +0.3〜1円 | +1円 | 高(制度的) |
| 補助金終了 | +1.8〜3.5円 | +3.5円 | 確定済み |
| 複合時の合計 | ― | +15〜35円/kWh | 低 |
※ 影響幅は目安。契約種別(市場連動・固定)や電力会社・エリアにより異なります。JEPX急騰は市場連動プランのみ直接影響します。
月間使用量5万kWhの事業所を例に、リスクの重なり方別の月額増加・年間増加を試算します。
| シナリオ | 単価上昇幅 | 月額増加 | 年間増加 |
|---|---|---|---|
| 通常時 | ±0円 | 基準 | 基準 |
| 軽度リスク(燃調+再エネ) | +3円/kWh | +15万円 | +180万円 |
| 中度リスク(+円安+容量) | +8円/kWh | +40万円 | +480万円 |
| 重度リスク(+LNG+JEPX) | +20円/kWh | +100万円 | +1,200万円 |
| ワーストケース(全要因重複) | +35円/kWh | +175万円 | +2,100万円 |
※ 月5万kWhの事業所を想定した試算。基本料金・消費税は含みません。実際の影響は契約種別・エリアにより異なります。
以下5項目を確認しておくことで、ワーストケース発生時の影響を最小限に抑えやすくなります。
需要増、燃料高、為替、供給不安が同時に起こると、単独要因のときより電気料金への影響が大きくなりやすくなります。 一部は市場価格に直接表れ、別の一部は燃料費調整額や契約更新時の見積条件として表れます。
そのため、請求書の一項目だけで判断すると、上振れの全体像を見落としがちです。 法人・企業・自治体の実務では、基本料金、従量料金、調整項目、契約条件を分けて確認することが重要です。
市場連動プランは、短期の市場価格変動を受けやすく、上振れの影響が比較的見えやすい特徴があります。 一方で、固定プランは毎月の単価が急変しにくい反面、契約更新時や調整項目で影響が出る場合があります。
つまり「固定だから常に安心」「市場連動だから常に不利」という単純な話ではありません。両者の違いは 市場連動プランと固定プランの比較ページで整理したうえで、リスク許容度と運用体制に合わせて判断することが大切です。
ワーストシナリオを確認しておくと、年間予算の安全幅をどこまで確保するかを考えやすくなります。特に、 議会説明、庁内説明、経営会議、調達稟議では、変動リスクを含めた説明が求められる場面が少なくありません。
単価比較だけでなく、変動リスク込みで契約を検討することで、見積時点と運用時点のギャップを抑えやすくなります。
請求構造の確認は 燃料費調整額の解説や 法人の電気料金が上がる理由のページが参考になります。
原発全停止により火力依存上昇。LNG輸入急増、電気料金構造が大きく変化。
再エネ普及の起点。再エネ賦課金が新たな料金構成要素に。
低圧需要家も電力会社を選択可能に。新電力急増。
全国初のエリア全停電。BCP・分散電源への注目高まる。
LNG在庫不足と寒波で年末年始に異常高騰。新電力撤退の発端。
LNG・石炭価格急騰。法人電気料金の歴史的高騰の引き金に。
全国初の警報発令。需給ひっ迫対応の重要性が認識される。
国の補助金で電気代を一時的に抑制。2024年度以降段階的縮小。
送配電事業者の総収入規制を本格運用。長期の料金安定化を狙う。
GX-ETS・化石燃料賦課金の段階導入が決定。中長期のカーボンコスト上昇要因。
容量拠出金が小売事業者・需要家のコスト増要因として顕在化。
排出量取引が義務化。電力会社の排出枠コストが料金に転嫁される段階へ。
※ 主要な電力市場・料金に影響を与えたイベントを年表化したものです。詳細は各種公的資料をご参照ください。
LNG価格急騰、円安進行、JEPXスポット価格の急騰、再エネ賦課金・容量拠出金の増加、補助金終了などが同時に重なった場合を指します。過去にも2021年冬のLNG不足と寒波、2022年のウクライナ危機と円安のように複数要因が重なる事象が実際に発生しています。
月間使用量が5万kWhの場合、通常時から+35円/kWhの上振れが重なると月額+175万円(年間+2,100万円)規模の増加になる試算です。使用量が多いほど影響額も大きくなるため、大規模施設や製造業では特に注意が必要です。
①契約メニューが市場連動かどうかを確認、②予算に中度リスク相当の安全幅を加える、③確定済みの上振れ要因(補助金終了・制度変更)を先に予算に反映、④契約更新6か月前からワーストケース単価での複数社比較を実施、の4点が基本的な備えになります。
著者: 江田健二(一般社団法人エネルギー情報センター 代表理事)
公開日: 2026-03-28
個別リスクと契約メニューの理解をつなげると、見直し判断を具体化しやすくなります。
ワーストシナリオの考え方を押さえた後は、現在契約と候補条件を比較し、自社に近い条件でシミュレーションしておくと判断しやすくなります。
記事を読んで気になった点があれば、エネルギー情報センターにお気軽にご相談ください。法人・自治体の電力契約に精通したスタッフが、中立的な立場で判断材料を整理します。初回相談は無料です。
中立的な立場で、特定の電力会社への勧誘は一切行いません。