JEPX(日本卸電力取引所)のシステムプライスは、市場連動プランを契約している法人の電気代に直接影響するだけでなく、固定プランの価格改定や新電力の撤退リスクにも連鎖します。 2016年度から2025年度までの推移を年度単位で整理し、大きなスパイクが起きた背景と法人コストへの波及経路を解説します。
下表はJEPXスポット市場(システムプライス)の年度単純平均・最高月・最低月・前年比をまとめたものです。 2020年度1月の異常スパイク(248円/kWh超)は年度平均を大きく押し上げており、市場の不安定性を端的に示しています。
| 年度 | 年度平均 円/kWh | 最高月(月平均) | 最低月(月平均) | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 2016年度 | 8.4 | 1月(11.2) | 4月(5.8) | — |
| 2017年度 | 9.1 | 2月(12.6) | 5月(6.3) | +8.3% |
| 2018年度 | 10.2 | 1月(14.8) | 4月(7.1) | +12.1% |
| 2019年度 | 7.6 | 1月(11.4) | 9月(5.2) | ▲25.5% |
| 2020年度 | 10.3 | 1月(248.0) | 8月(6.7) | +35.5% |
| 2021年度 | 18.5 | 6月(22.3) | 3月(14.6) | +79.6% |
| 2022年度 | 20.1 | 9月(27.8) | 3月(15.2) | +8.6% |
| 2023年度 | 12.8 | 1月(19.4) | 5月(8.7) | ▲36.3% |
| 2024年度 | 13.6 | 2月(20.1) | 5月(9.2) | +6.3% |
| 2025年度 | 14.2 | 1月(21.5) | 6月(9.8) | +4.4% |
※JEPXスポット市場のシステムプライス年度単純平均をもとに整理した参考値。2020年度は1月のスパイクにより特異値となっています。
過去に発生した主なJEPXスパイク事例について、原因・期間・ピーク価格・法人への影響を整理します。 スパイクは単発ではなく、燃料調達・需給バランス・気象条件が重なる「複合事象」として発生するケースが多い点が特徴です。
2021年1月スパイク
原因
寒波による需要急増・LNG在庫ひっ迫・予備率低下が同時多発
期間
2021年1月上旬〜中旬(約2週間)
ピーク価格
最大250円超/kWh(スポット市場上限価格に到達)
法人への影響
市場連動プランの法人は月次請求が数倍に膨らんだ。固定プランでも市場価格調整額が急騰した事業者が続出。
2022年夏(電力ひっ迫警報)
原因
ロシア・ウクライナ情勢によるLNG価格高騰+猛暑による需要増
期間
2022年6月〜9月(4か月継続)
ピーク価格
月平均25〜28円/kWh水準が長期継続
法人への影響
市場連動プランの法人は夏季の電力コストが前年比1.5〜2倍。政府の節電要請と電力需給ひっ迫警報が発令。
2023年冬(寒波×燃料高)
原因
年明け寒波と依然高止まりしているLNG・石炭価格の複合影響
期間
2023年1月(2週間程度)
ピーク価格
月内最高値19〜22円/kWh前後
法人への影響
前年ほどのスパイクには至らなかったが、高水準での推移が続いた。市場連動プラン法人の冬季コスト増が継続。
JEPXの価格上昇は、すべての法人に等しく即座に影響するわけではありません。影響の出方は契約の種類と電力会社の調達構造によって異なります。以下の4つの経路が主な波及ルートです。
経路①:市場連動プランへの直接反映
JEPX価格に連動する料金単価を契約している場合、前月または当月のJEPX平均値がそのまま単価に算入されます。価格が上昇した翌月から請求額が増加し、スパイク時には月次コストが数倍になることもあります。
経路②:市場価格調整額(MPA)への反映
固定プランであっても「市場価格調整額」が設定されている場合、JEPXが基準価格を超えた分を追加徴収されます。契約書・供給約款の「市場価格調整」条項を確認しておくことが重要です。
経路③:新電力の価格改定・撤退
新電力はJEPXから電力を調達しているケースが多く、市場価格の高騰が続くと採算悪化から大幅値上げや撤退に至ります。2021〜2022年に実際に多数の新電力が事業停止・撤退し、法人が最終保障供給に移行する事例が続出しました。
経路④:大手電力の規制料金改定
大手電力会社の規制料金(旧一般向け料金)は、長期的にJEPXを含む総電源コストを参照して改定されます。2023年の大手各社の料金値上げには、JEPX高騰期の原価上昇が反映されていました。
月間使用量5万kWh、市場連動反映率50%、基本単価12円/kWhの条件で、JEPXが各水準にあった場合の月額請求を試算します。 8円/kWhを基準とし、価格上昇に伴うコスト増加を確認してください。
| JEPX水準 | 基本単価 円/kWh | 合計単価 円/kWh | 月額(5万kWh) | 基準比コスト増 |
|---|---|---|---|---|
| 8円/kWh | 12.0円 | 16.0円 | 80.0万円 | —(基準) |
| 12円/kWh | 12.0円 | 18.0円 | 90.0万円 | +10.0万円 |
| 20円/kWh | 12.0円 | 22.0円 | 110.0万円 | +30.0万円 |
| 50円/kWh | 12.0円 | 37.0円 | 185.0万円 | +105.0万円 |
※試算値。市場連動反映率50%(JEPX価格の50%が従量単価に上乗せ)、月間使用量5万kWhの前提。実際の反映率・計算方式は契約によって異なります。
固定プランとの比較での考え方
固定プランは単価が安定しますが、通常JEPX低水準時よりも若干割高な単価設定になっています。 JEPX 8〜12円/kWhの安定期には市場連動プランが有利になりやすく、20円超の高騰期には固定プランが大幅に有利になります。 自社の電力使用量とリスク許容度に照らして、どちらの変動を許容できるかを基準に選択することが重要です。
A.2014年から2024年で平均約40〜60%上昇。特に2022年のウクライナ戦争後は年間20%以上の上昇を経験した企業も多く、高騰・高止まりが続いています。業種・契約種別により上昇率は異なります。
A.燃料価格の国際動向、再エネ普及ペース、制度改正(GX-ETS・化石燃料賦課金)、地政学リスクで変動します。2030年までは構造的な上昇圧力が続き、大幅な低下は期待しにくい見通しです。
A.はい。火力依存度が高いエリア(東京・北海道)は燃料高騰の影響を強く受け、再エネ比率が高いエリア(九州・四国)は比較的安定する傾向があります。エリア別のモニタリングが重要です。
A.電力多消費業種(製造業・データセンター・冷凍倉庫)は上昇率も大きく、経営インパクトが直接的。サービス業・小売は電気代比率が小さく影響は緩やかですが、月次変動は無視できません。
A.年率3〜6%の上昇シナリオを基本に、保守・標準・高騰の3シナリオで試算。PPA等の長期契約・省エネ投資・再エネ調達などヘッジ手段を組合せて、年次で見直すことを推奨します。
原発全停止により火力依存上昇。LNG輸入急増、電気料金構造が大きく変化。
再エネ普及の起点。再エネ賦課金が新たな料金構成要素に。
低圧需要家も電力会社を選択可能に。新電力急増。
全国初のエリア全停電。BCP・分散電源への注目高まる。
LNG在庫不足と寒波で年末年始に異常高騰。新電力撤退の発端。
LNG・石炭価格急騰。法人電気料金の歴史的高騰の引き金に。
全国初の警報発令。需給ひっ迫対応の重要性が認識される。
国の補助金で電気代を一時的に抑制。2024年度以降段階的縮小。
送配電事業者の総収入規制を本格運用。長期の料金安定化を狙う。
GX-ETS・化石燃料賦課金の段階導入が決定。中長期のカーボンコスト上昇要因。
容量拠出金が小売事業者・需要家のコスト増要因として顕在化。
排出量取引が義務化。電力会社の排出枠コストが料金に転嫁される段階へ。
※ 主要な電力市場・料金に影響を与えたイベントを年表化したものです。詳細は各種公的資料をご参照ください。
JEPX高騰が続いた場合に自社の電気代がどう変わるか、シミュレーターで把握しましょう。
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中立的な立場で、特定の電力会社への勧誘は一切行いません。
当法人は法人向け電気料金の高騰リスク分析・脱炭素対応支援を行う非営利法人です。本記事は公的データ(経済産業省・OCCTO・JEPX・環境省等)と実務知見を基に編集しています。
この記事の著者: 江田 健二(一般社団法人エネルギー情報センター 理事 / RAUL株式会社 代表取締役)— 電力・エネルギー業界20年以上、書籍20冊以上執筆、内閣府・中小企業庁・商工会議所登壇多数プロフィール →