オフィスビルの電気料金は、空調・照明・エレベーターなど複数の設備が組み合わさっており、特に夏冬の空調シーズンに使用量が増加します。平日日中に使用が集中するパターンは、料金プランの選択や設備対策の判断に影響します。
このページでは、オフィスビル特有の負荷特性を踏まえ、契約見直しの着眼点を整理しています。
このページでわかること
当法人は法人向け電気料金の高騰リスク分析・脱炭素対応支援を行う非営利法人です。本記事は公的データ(経済産業省・OCCTO・JEPX・環境省等)と実務知見を基に編集しています。
この記事の著者: 江田 健二(一般社団法人エネルギー情報センター 理事 / RAUL株式会社 代表取締役)— 電力・エネルギー業界20年以上、書籍20冊以上執筆、内閣府・中小企業庁・商工会議所登壇多数プロフィール →
オフィスビルの電気料金上昇は、空調が使用量の40〜60%を占める「空調支配」構造と、近年の猛暑による空調需要の年々の高まりという2つの要因が重なることで他業種より加速しやすいのが特徴です。さらに、テナント賃料への転嫁ルートが契約形態(事業所ビル/区分所有/サブリース)で大きく異なるため、見直しの主体・効果配分の整理が他業種より複雑になります。以下に、構造的な要因を整理します。
電気料金の上昇要因の全体像は 法人の電気料金が上がる理由 で確認できます。
オフィスビルの電力使用は、空調が圧倒的な比重を占める「空調支配型」の負荷構造を持ちます。一般的なオフィスでは空調が全使用量の40〜60%、照明が15〜25%、OA機器・サーバーが10〜20%、共用部・搬送動力が10〜15%を占めるとされており、空調を制することがそのまま電気代削減の主戦場になります。各設備カテゴリの特性は以下のとおりです。
空調設備
オフィスビルの電気使用量の40〜60%を空調が占めることが多い。夏場の冷房・冬場の暖房で使用量が増加し、特に夏の高気温日にはデマンドピークが発生しやすい。中間期(春・秋)は使用量が大幅に減少する。
照明設備
営業時間(平日8時〜20時前後)に集中して使用。LED化が進んでいる建物では照明の電力消費は大幅に削減されているが、大規模ビルでは絶対量がまだ大きいケースもある。人感センサー・照度センサーとの組み合わせが効果的。
エレベーター・エスカレーター
通勤・昼食時間帯などの集中時に稼働が増加する。高層ビルでは台数が多く、合計消費量は無視できない規模になる。ただし個別に制御できる余地は少ないため、契約電力の管理よりも稼働最適化が主な対策になる。
サーバー・OA機器
テレワーク普及後も、オンプレミスサーバーや複合機・PC等のOA機器が一定の電力を消費し続ける。常時稼働のサーバーはベースロードとして影響し、クラウド移行でオフィスの電力消費を削減できる場合もある。
共用部・外灯
共用廊下・駐車場・外灯・防犯カメラ・エントランスなどの設備は24時間稼働するものも多い。テナントビルでは管理費と電気代の配分が複雑になることもある。
自社ビルの電力消費が業界水準と比べて多いのか少ないのか、規模感をつかむには「延床面積あたりの年間電気代」で比較するのが実務的です。階数(建物高さ)はエレベーター・揚水ポンプ・空調搬送動力に影響し、延床面積規模は空調・照明の絶対量を決めるため、両軸で見ることが重要です。
| 規模 | 延床面積目安 | 年間使用量目安(kWh/m²) | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 5階建て中層ビル | 2,000〜5,000m² | 約100〜140 kWh/m² | 高圧契約。エレベーター搬送動力少なめ |
| 10階建て中規模ビル | 5,000〜15,000m² | 約120〜160 kWh/m² | 高圧の最上位帯。空調セントラル方式 |
| 30階建て高層ビル | 30,000m²超 | 約140〜200 kWh/m² | 特別高圧。高速EV・揚水・全館空調制御 |
出典: 国土交通省「建築物環境配慮計画書」集計、日本ビルエネルギー総合管理技術協会「業務用ビルのエネルギー消費実態」をもとに業界平均レンジで作成。築年数・空調方式・テナント業種で変動。
自社ビルのkWh/m²が業界平均レンジの上限を超えている場合、設備老朽化・空調効率低下・テナント業種特性のいずれかが原因として疑わしく、契約見直しと並行して設備更新の検討が必要なシグナルになります。
オフィスビルでプラン選択の前に整理すべきは、電気代を最終的に誰が負担するかです。自社専有ビルでは電気代上昇は本社経費への直撃となり固定プランの安定性メリットが大きい一方、テナントビルでは共益費・実費精算・サブメーター個別契約など複数の転嫁ルートがあり、転嫁可能性の高さが市場連動の許容度を引き上げます。事業規模・リスク許容度・予算管理の方法に加えて、この『転嫁構造』を起点に判断することが重要です。
固定プランが向きやすいケース
市場連動を検討できるケース
プラン選択の考え方は 固定プランと市場連動プランの判断ガイド で詳しく整理しています。
近年のオフィスビルでは、テナント企業のCDP対応やTCFD・SBT・RE100コミットメントの広がりを背景に、入居先ビルに「環境性能」を求めるテナント需要が顕在化しています。電力契約見直しと、グリーンビル認証取得・再エネ調達を一体で設計することが、単なるコスト削減を超えた競争力の源泉になります。
LEED(米国基準)
外資系テナントが評価しやすい国際基準。エネルギー効率・水使用・室内環境・立地など総合評価。再エネ電力購入が加点要素。
CASBEE(国内基準)
国内大手企業・地方自治体が評価する日本基準。建築物の環境性能を5段階で評価し、自治体の容積率緩和・税制優遇と連動するケースもある。
ZEB(経産省/環境省)
Net Zero Energy Building。一次エネルギー消費量を50〜100%削減する建築物。補助金の対象としては最も額が大きく、新築・既存改修の両方に対応。
実務上は、ベース契約の電源構成を再エネ比率の高いプランに切り替えるか、非化石証書を別途調達するかの2択が一般的で、後者のほうが調達単価交渉の柔軟性が高くなります。非化石証書の活用方法も合わせて検討してください。
オフィスビルの契約見直しで決定的に効くのが30分値デマンドデータの取得・分析です。電力会社のWebマイページや電気料金請求書では月単位の使用量しか分からないため、契約電力の妥当性判断や時間帯別料金プランの効果試算には30分値(1日48コマ・1か月1,440コマ)の生データが必要になります。電力会社に正式申請すれば過去12〜24か月分のCSV入手が可能です。これを下記の観点で分析します。
オフィスビルは平日の昼間に電力使用が集中し、夜間・休日は大幅に低下する傾向があります。この「昼間集中・夜間低下」のパターンは、時間帯別料金設計(ピーク・オフピーク)を活用できる可能性があります。直近12か月の月次使用量に加えて、30分値のデマンドデータを収集しておくと、負荷パターンの分析に役立ちます。
空調が主な電力使用の業種のため、夏(冷房)と冬(暖房)に使用量が増加し、春・秋は低くなる二山型のパターンが典型的です。ただし、近年の猛暑により夏の電力消費が年々増加傾向にあることも考慮に入れておく必要があります。
夏の暑い日に空調・照明・OA機器が同時に動くタイミングでデマンドのピークが発生します。デマンドコントローラーによる設備の起動タイミング制御、空調設定温度の管理、照明の自動制御などを組み合わせることで、契約電力の引き下げにつながる可能性があります。
テナントビルでは、電力の一括受電・テナント別メーター・管理組合経由の契約など、電力の供給形態が複雑になることがあります。自社ビルでは意思決定がシンプルですが、テナントビルでは管理会社・テナント・オーナーの関係整理が必要な場合があります。
契約見直しの全体的な進め方は 法人の電力契約見直しチェックリスト で整理しています。
既存ビルの省エネ改修では、補助金活用と投資回収期間のバランスから、改修順序を「効果の大きい順×補助率の高い順」で組むのが原則です。一般的には①空調主機更新(電気代の最大費目)、②BEMS導入(運用最適化の基盤)、③LED化、④外皮断熱の順に投資回収が早い傾向があり、ZEB Ready相当を目指すならまずこの順で着手します。オフィスビルで検討されることの多い設備対策は以下のとおりです。
空調の高効率化・制御
インバーター制御・部分負荷効率の高い機種への更新。フロア別・時間帯別のきめ細かい制御で、使用量削減とデマンド抑制の両方に効果が出やすい。
照明のLED化・センサー制御
未LED化のフロアがある場合は、LED化による電力削減効果が大きい。人感センサー・照度センサーとの組み合わせで、自動消灯・調光による削減効果を高める。
屋上・壁面太陽光
屋上面積がある自社ビルでは、自家消費型太陽光発電で昼間の購入電力を削減できる。PPAモデルを活用することで初期投資を抑えて導入できる場合もある。
複合施策の効果を具体的にイメージするため、中規模オフィスビルを想定した試算ベンチマークを示します。築年数・空調方式・テナント業種で削減幅は変動しますが、初期検討の目安として活用できます。
想定モデル
削減施策と効果目安(年間)
出典: 環境省ZEB事業実績集、不動産協会「ビル省エネ改修事例」、エネルギー情報センター内部試算をもとに業界平均レンジで作成。
オフィスビルの契約見直しでは、以下の観点でシミュレーターを活用すると、判断材料を数値で把握できます。
原発全停止により火力依存上昇。LNG輸入急増、電気料金構造が大きく変化。
再エネ普及の起点。再エネ賦課金が新たな料金構成要素に。
低圧需要家も電力会社を選択可能に。新電力急増。
全国初のエリア全停電。BCP・分散電源への注目高まる。
LNG在庫不足と寒波で年末年始に異常高騰。新電力撤退の発端。
LNG・石炭価格急騰。法人電気料金の歴史的高騰の引き金に。
全国初の警報発令。需給ひっ迫対応の重要性が認識される。
国の補助金で電気代を一時的に抑制。2024年度以降段階的縮小。
送配電事業者の総収入規制を本格運用。長期の料金安定化を狙う。
GX-ETS・化石燃料賦課金の段階導入が決定。中長期のカーボンコスト上昇要因。
容量拠出金が小売事業者・需要家のコスト増要因として顕在化。
排出量取引が義務化。電力会社の排出枠コストが料金に転嫁される段階へ。
※ 主要な電力市場・料金に影響を与えたイベントを年表化したものです。詳細は各種公的資料をご参照ください。
A.電力多消費業種(製造・冷凍倉庫・データセンター)は基本料金比率が高く、サービス業は使用量料金中心。業種特性に応じた最適化アプローチが異なります。
A.業種別ベンチマークデータは省エネルギーセンター・経産省統計で公表されています。自社の使用量を業種平均と比較することで改善余地が見えます。
A.①売上原価における電気代比率、②時間帯別消費パターン、③契約区分(高圧/低圧)、④地域分散度、の4軸で業種特性が変わります。
A.①製造業:デマンド管理・生産シフト、②飲食店:冷蔵冷凍効率化、③オフィス:空調・照明制御、④物流:冷凍倉庫運用、⑤データセンター:冷却最適化が定番です。
A.事業所別・業種別に契約・プランを最適化し、グループ全体で集中管理するハイブリッド型が効果的です。業種別の電力原単位管理を起点にします。
まず直近12か月の月次使用量とデマンドデータを収集し、ピーク時間帯と季節変動のパターンを把握することが出発点です。その上で、現行契約の基本料金と電力量料金の比率を確認し、固定プランと市場連動プランのどちらが自社に向いているかを判断します。
大規模ビルや予算管理の説明責任がある法人は、価格変動リスクを避けられる固定プランが向きやすいです。中小規模でモニタリング体制があれば市場連動も選択肢になりますが、夏の需給逼迫時に使用量が増えるオフィスビルの特性上、リスク管理が重要になります。
効果があります。30分値デマンドのピークを監視し、設定値を超えそうになると空調・照明等を自動制御することで契約電力を引き下げられます。特に夏の空調集中時にデマンドピークが発生しやすいオフィスビルでは、基本料金削減の効果が期待できます。
kWh単価そのものは契約区分(高圧/特別高圧)と電力会社の料金メニューで決まり、階数で直接変わるものではありません。ただし高層ビルは延床面積も大きく契約電力(kW)が大きいため特別高圧での契約となるケースが多く、結果的にkWh単価が中層ビルより安くなる傾向があります。一方で、エレベーター・揚水・空調搬送動力など階数依存の使用量は大きいため、kWh単価ではなく『延床面積あたりの年間電気代』で比較するのが実務的です。
LEED・CASBEE・ZEB認証の取得自体は審査費用がかかりますが、認証取得を目指す過程で実施される高効率空調・LED・断熱性能向上・BEMS導入により、ベースの電気代は通常10〜30%削減される事例が多いです。また再エネ100%プラン併用で『RE100相当』を実現するケースでは、再エネプレミアム分の単価上乗せが発生する一方、入居テナント側からの賃料プレミアムを得やすく、不動産価値とのトータルで判断します。
なります。環境省「ZEB化推進事業」「業務用建築物の脱炭素改修支援」、経産省「省エネルギー投資促進支援事業(SII)」のいずれも、新築だけでなく既存ビルの省エネ改修を対象としています。既存ビルではZEB Ready(ZEB相当の半分以上の省エネ)レベルが現実的な目標となり、空調・照明・断熱の同時改修で50%以上の削減を達成すれば補助率3分の1〜2分の1の補助を受けられる制度設計が一般的です。
著者: 江田健二(一般社団法人エネルギー情報センター 代表理事)
公開日: 2026-04-10
業種別の電気料金見直しガイド一覧
業種ごとの負荷特性と契約見直しの考え方を一覧で確認。
固定プランが向く法人の特徴
固定プランを選ぶ判断基準とよくあるケース。
法人の電力契約見直しチェックリスト
見直し準備の基本項目を一覧で確認。
スーパーマーケットの電気料金見直しポイント
冷蔵・空調負荷の特性から見た契約見直しの考え方。
病院の電気料金見直しポイント
安定性重視の医療施設における契約設計の考え方。
デマンド料金(基本料金)の仕組み
契約電力とデマンドの関係、基本料金の削減方法。
オフィスの電気料金相場と目安
オフィスビルの規模・用途別の電気料金水準を把握し、自社コストと比較する。
デマンドコントロールによる電気料金削減効果
オフィスビルでのデマンド管理が基本料金削減にどれだけ効果があるかを解説。
小規模オフィスの電気代
ビル内テナントとなる小規模オフィスの電気代構造を把握し、ビル側がテナントのコスト感を理解した上で共用部設計を最適化できます。
工場電気代ベンチマーク
中央管理、大型空調、大電力契約という点でオフィスビルと工場は共通点が多く、設備運用の最適化手法が相互に参考になります。
ホールディングス電気代見直し
複数物件を保有する企業の全社視点の電気代見直しを参照し、保有ビルの一括契約・共同調達による交渉力強化のヒントを得られます。
小売店電気代ベンチマーク
商業テナントが入るオフィスビルでは、テナント側の小売店舗ベンチマークを把握すると、共用部料金や転貸電気の妥当性を判断しやすくなります。
空調・照明・電力使用量を踏まえた契約条件をシミュレーターに入力して、年間リスク額や固定プランとの比較を確認できます。
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